言語生活2019:かかずらう、などなど

「かかずらう」
読売新聞生活面には長く続く「人生案内」があります。時代を映す様々な内容やその境遇に思うことも多く必ず読んでしまいます。また、回答には人柄も現れており、そう切り込んでかように組み立て、返すのかと感心します。特にさすがだと思うのは、出久根達郎さんと増田明美さんです。最近加わられた出口治明さんにも注目しています。

数か月前になりますが、「そのことにかかずらっていると、ますますいやになるばかり。自分自身まで憎くなります。」との出久根達郎さんの回答文がありました。
「かかずらう」という言葉、私の周りで聴くこともなく、これまで使った事もありません。関わるという意味だと見当がつきましたが、確認してみると、「面倒なことにかかわりを持つ」「ささいなことやつまらないことにこだわる」「つきまとう」など、「関係する」ことのネガティブな側面を表す言葉でした。
かかずらうは、幾分方言のように感じられますが、上代からある古い言葉であって、標準語に位置づけられる言葉とのことでした。

「しっかり抱いて、そっとおろして、歩かせる」
この度の、小泉進次郎衆議員とフリーキャスターの滝川クリステルさんの突然の結婚発表は衝撃的でした。驚きの後には、なんと見事なカップルかと納得。翌日のワイドショーも、こぞっての祝福報道でした。その中に、小泉元首相が家庭教育3原則としている、「しっかり抱いて、そっとおろして、歩かせる」が取り上げられていました。
「しっかり抱いて、そっとおろして、歩かせる」、いい言葉です。私には初めてのフレーズでしたが、この平易な言葉に育児の本質が詰まっていると思いました。
しっかり抱いて:無条件の愛情からの自然な愛着形成がなされ、そっとおろして:さあ歩めよと、独り立ちの第一歩だと地につかせて手を放し、歩かせる:適度の距離を持って、信頼のまなざしで見守る親がある
この言葉,出典はあるのだろうかと気になり、調べましたが見つけることはできませんでした。子どもの発達段階に応じた親のかかわり方の本質をついた日本古来の格言と言えそうです。

祖母の言葉を思い出します。祖母は「上見て励め、下見て暮らせ」と、ことあれば言い聞かす様に言っていました。今風の「でっかい目標と謙虚な立ち振る舞い」にも通じます。祖母の口癖は、志を持って懸命に励み、下見ては、道を外さぬように地に足を付けて、実直な日々を重ねよ、ということだと理解していました。それは意識下にいつもあり、私の生き方に影響を与えていたように思います。この言葉の出典も気になり調べたのですが、見つかりませんでした。ひと昔前は、かなりつかわれていたようで、昔から日本で言われてきた生活に関する格言のようです。

それぞれの家庭には、生き方の根本にかかわる、世代を越えて伝わる言葉や家訓といったものがあると思います。価値観が多様化し、熾烈な競争の現代にあって、あの子がなぜと思うほど、子供達は往々にして漂流し、押しつぶされてしまいます。その様な状況下、子供達が道を外す事なく生き抜いていくためには、世代を超えて伝わる言葉が、案外重要で、見えぬ役割を果たしているように思います。
私も折に触れ「上見て励め、下見て暮らせ」、「仕事は先進的、生活は保守的に」(井澤道教授の言葉)と、子供や孫に発しています。伝わってくれればよいのですが。

 

「3つの関門:悪魔の川、死の谷、ダーウインの海」
今年のノーベル化学賞に輝いた吉野彰氏の報道に注目していました。その中で興味深かったのは、新規事業を成功させるために乗り越えるべき3つの関門がる、とのお話でした。3つの関門とは(1)さまざまな試行錯誤を経て発明に至るまでの基礎研究に悩まされる「悪魔の川」、(2)安全性テストなどの課題解決に追われて事業化が決定するまで苦労が続く「死の谷」、(3)製品を出しても市場が立ち上がるまで注目されない「ダーウインの海」とのことです。初めて知る言葉でした。
技術マネシメントの分野では有名な言葉の様です。技術を中心にした経営を考える場合、『研究』→(A)→『開発』→(B)→『事業化』→(C)→『産業化』のステージかあり、それぞれのステージの間には、A悪魔の川(出川通氏命名)、B死の谷(エイラーズ氏命名)、Cダーウインの海(フランスコム氏命名)の深い溝かあり、この深い溝をどのようにして越えるかが課題となるというものです。魔の川、死の谷、ダーウインの海、とくれば、てっきり西洋の学説かと思ったのですが、「魔の川」が出川通氏の命名と知りちょっと意外でした。(参照pub.nikkan.co.jp/uploads/book/)

 

「養生テープ」
「養生テープ台風で話題」とのヤフーニュースの見出しがありました。Twitterで10月10日ごろから、「養生テープ」がトレンドに入るなど話題になっていたそうです。非常に強い勢力のまま関東に上陸すると見られていた台風19号の対策グッズとして注目されていたのです。

小学生の頃、家の改修や増築で来てくれていた左官屋さんや大工さんがよく「養生する」と言っていました。家族の会話に養生という言葉があったとしても素通りだったようで、職人さんの発する養生が何か意味深く感じられ、ずっとどこかにありました。

そして、長ずるに従い、養生訓の事など知るにつれて、養生についての、辞書にある1番の意味である「生活に留意して健康の増進を図ること」、2番の「病気の回復に努めること」をやっと知ったのです。私は、辞書3、4の意味から先に習得したと言えます。そうして、建築領域でのコンクリートや板、通路などを保護する養生という言葉は、物であっても生き物に対するような気使いを含んだ言葉なのだと分かったのでした。

日常的に多くが外来語に置き換わり、外来語が氾濫している現状にあります。養生テープは、Curing tapeと訳されていますが、キュリングテープでは無く、日本人に本来の意味が伝わりやすい養生テープとして実際に使用されていることにほっとします。でもそれは単に養生テープの方が発音しやすいからかも知れません。

ホームセンターに行くと、養生テープも各種、色もカラフルに売られています。同じような物で、マスキングテープとの表示のものもあります。それらに機能的な差はあるのだろうか、使い分けもしているのだろうか。今ひとつ分からないまま、資材・工具の商品棚の前を行ったり来たりしています。

 

三重医報 2019年11月号掲載

 

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