コロナワクチン接種とニューノーマル
伊賀市のコロナワクチン接種は、市内の41医療機関が協力する個別接種を主体としたもので、集団接種は1か所のみでした。12月末の集計では、総件数140935件で、市内医療機関69.5%、市内2病院(上野市民、岡波)11.6%、伊賀市集団接種1.3%、その他17.6%でした。接種率も集団会場主体の他の市町村と比べても遜色なく、結果として効率的に行われたと思います。
わが小児科医院も参加し、何千人ものコロナワクチンを接種しました。青年から高齢者まで、普段は出会わぬ方々と接していろいろ思うところがありました。
問診表を確認していて、抗うつ薬を服用している人が予想以上に多く、悪性疾患治療中の多いことにも驚きました。また婦人科の腫瘍既往も意外と多い。癌治療は在宅に広がっていて、進歩の一面が窺えました。
何人もの同級生もこのワクチン接種に来てくれました。久しぶりの再会でしたが、もうすぐ70歳となれば、既往欄にそれなりの病名と内服薬が記入されています。そんな中で、2名の同級生は、悪性腫瘍治療中で、見覚えのある筆跡で病名やステージが書かれてありました。診療会話のみで筋注が済み、多くは語れず、じゃあ、と見送った。その背に、つい先ほどの表情と視線をリプレイのように見ていました。数ヶ月して、立て続けに朝刊のお悔やみ欄に彼らの名を見つけ、黙して別れを告げたのでした。
驚いたことは、他にもありました。入れ墨の人がこんなに多いのかと。20歳から40歳台に目立ち、我々からすればびっくりです。上腕三角筋一面にまで施されており、どこに刺せばいいのかと、注射筒を持ったまま戸惑うことも二度、三度。ただ、会話や表情からは、いかにもといった感じは受けず、いやむしろ幾分フレンドリーな感のあるものでした。若い女性の方も2、3人おられたし、それだけ一般化したという事で、多様化の一面ととらえるべきことかもしれません。
件数は少なくなりましたが、生命保険の健康診査もしています。今も、生検痕・外傷痕・ケロイド・奇形・入れ墨の項目があって、入れ墨は健康リスクとしてあげられています。喫煙やアルコール摂取と同じようなリスクの一つと割り切る必要があるのかもしれません。
ネットニュースに、「橋下徹氏、25歳長女のタトゥー、時代の流れに押されて解禁」とありました。最初は「やめた方がいい」と言っていたそうですが、「そうゆう文化だからと言う論法は今の25歳くらいには通用しないんですよ。理屈を言っていかないといけない。そこは時代の流れによって自由に任せる。僕はやめてほしいんだけど、時代かな」と語っていました。
孫たちも、現代の自由の中に身を置き、多種多様な刺激や事象にさらされて、免疫応答のごとくにそれぞれに反応して適応して生きてゆかなくてはなりません。拒絶にせよ受け入れるにせよ、受け継いだ文化や美意識に基づいて自身の判断により決します。どれほど伝わっているのか心もとないが、わが国とわが家の伝統的な文化や美意識がより多く引き継がれていることを願うばかりです。
注射後の15分間は待合室で待機していただくのですが、高齢の方のほうが、置いてある本に興味を示してくれます。スマホより活字。14年前に自費出版し、日本自費出版大賞入選の随筆集「オニヤンマと聴診器」ですが、それを手に取り読んでくれています。感想のメモ書きを渡してくれる人もいました。興味を伝えてくれた3人には、取り出してきて進呈すると、後日、感想の手紙も届き、コロナワクチンによりもたらされた出会いでありました。
コロナワクチン接種で知っていただいたのか、令和3年度の特定健診受信者が増えました。これまでは親戚縁者や近隣の方々の15名ほどでしたが、今期は41名。
こんなこともありました。昨年退職した66歳の男性で、ワクチンの後、特定健診も受けてくれました。型通りの診察で、心雑音がありますね、と伝えると、「えー」と発し、毎年健診を受けていたが、聴診は無く、何の指摘も無かったとの事。循環器内科に紹介し、僧帽弁後尖逸脱によるⅢ~Ⅳ度の高度逆流との報告でした。対面の健診においてすらこのようなことが起きている。話題のオンライン診療においては、やっぱりと言われる過誤も起こることでしょう。オンライン診療はメリットもありますが、いささかの気も抜けません。
さてその特定健診ですが、入力と請求は、国立保健医療学院のフリーソフトを使って、自分で行っています。これがまた大変で、請求エラーで戻ってきてはやり直し。使いにくいソフト極まりなく、全国でどれほどの無駄な労力が費やされていることか、と嘆かずにはいられません。
受付職員が、外見と性別記入が異なっていることに気付き、記入間違いなのか、どう尋ねるべきか困っている様子。正しい表記と確認されて診察室に入って来られたが、確かに、これほどに見まがう方は初めてでした。報道でもよく性別違和、ジェンダーアイデンティティ乖離の問題など取り上げられていますが、やはり一定の割合であるのだと実感しました。
昨年11月に開催された伊賀市の国民健康保険運営協議会での資料の中に注目すべき図表がありました。区分別の年間一人当たりの医療費を示したものです。2019年3月から2020年2月までの1年間、伊賀市の未就学児では140069円、市町村平均は186094円で、46025円も少なく、コロナの流行した2020年3月から2021年2月の1年間では、伊賀市未就学児105001円、市町村平均170001円で、なんと65000円も少ないものでした。なお、一般や前期高齢者の区分では伊賀市の国保は三重県市町村平均より高額でした。
未就学児は窓口負担なしで10割公費の診療であり、診察医師の診療や処方の内容が直接反映されます。伊賀の小児科医療者の無理のない診療姿勢が示されており、効率的に小児医療が遂行されていると読むことができます。伊賀は、人口に対する小児科医師数が少なく、それも関係しているのかもしれません。
もう一つの注目点は、コロナ禍により、伊賀国保の就学児の年間医療費は140069円から105001円になり、-35068円(-25%)の減。市町村平均は186094円から170001円になり、―16093円(―8.6%)の減。伊賀の未就学児は年間医療費が少ないうえに、コロナ禍における診療抑制はこれほどに著しい。小児科医院経営には厳しい数値です。
1月23日の朝刊をめくれば、「ニューノーマル時代の生活習慣病」との第一三共の全面広告。「ニューノーマル時代」とあるが、ニューノーマルとはなんだ。この言葉は以前よりあったようですが、コロナ禍の変化した後の常体を示すべく用いられています。
1月下旬よりコロナワクチン3回目接種が本格的に始まりました。3月以降には5歳~11歳の小児用2回接種が行われます。外来患者さんは少ないままですが、ワクチンの忙しい外来のおかげで、しばらく忘れていられる状態ですが、このコロナワクチン接種が終われば、一変した小児科外来のニューノーマルと対峙しなくてはなりません。これを機に診療を辞める年配の小児科医も少なくないでしょう。では、私はどうする。覚悟やいかに。
いつ入れてくれたのか机上のコーヒー。おもむろに口に含めば、まだ温かい。